私たちの身体の部位には、時として不思議な名称が付けられています。
その代表格ともいえるのが、女性器上部のふくらみを指す「恥丘(ちきゅう)」という言葉でしょう。
この一見すると堅苦しく、少し控えめな響きを持つ言葉には、実は解剖学的な由来だけでなく、愛と美の女神アフロディーテ(ヴィーナス)にまつわる、優雅で神秘的な歴史が隠されています。
1.「恥」という漢字に隠された歴史的背景
解剖学用語では、ラテン語で「恥部の丘」を意味する「mons pubis:モンズ・ピュービス」と呼ばれます。
ここで使われる「恥(pubic:ピュービック)」という言葉の語源をたどると、ラテン語の「pudere:プデーレ(恥じ入る)」に行き着きます。
古来より、人間の身体、特に外陰部は「隠すべき神秘的な部位」として、畏敬の念と少しの恥じらいを持って語られてきました。
そのため、多くの言語でこの部位には「恥」という概念が結びつけられてきたのです。
しかし、医学の視点で見れば、この部位は「恥骨」という骨を保護するクッションのような役割を果たす、生命の守護者ともいえる場所なのです。
2.「ヴィーナスの丘」という別名の美学
この部位が、別名「ヴィーナスの丘(Mons veneris:モンズ・ヴェネリス)」と呼ばれることをご存知でしょうか。
「恥」という漢字が持つ、どこか身をすくめるような響きとは対照的に、こちらの呼び名には、愛と美の女神の光が差し込んでいます。
愛の象徴であり、生命の誕生を司る女神。彼女の慈愛の象徴としての「丘」という表現は、この部位が持つ豊かさや母性、そして人間が本来持っている神聖な美しさを讃えるために名付けられたものなのです。
切手が描き出す、神話の中のヴィーナス
芸術の世界でも、ヴィーナスの美しさは時代を超えて称賛されてきました。
1968年 ハンガリー発行「名画シリーズ切手」:

アンジェロ・ブロンズィーノの傑作『ヴィーナス、キューピッド、そして嫉妬』。中央に描かれたヴィーナスの凛とした姿は、単なる美の偶像を超えて、生命の神秘と人間が抱く情熱の深淵を教えてくれるようです。
おわりに
私たちの身体にある「恥丘」という言葉。それを「恥」というフィルターを通して見るか、それとも「ヴィーナスの丘」という神話のフィルターを通して見るか、同じ部位を指していても、その名前に込められた意味によって、私たち自身の身体に対する感覚も少しだけ違ったものになるかもしれません。
医学的な名称は身体の形を説明しますが、神話的な名称は、その身体に流れる「生命の物語」を語りかけてくれます。
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